HER2遺伝子変異陽性肺癌の治療戦略(静止画)

サイトへ公開:2026年08月07日 (金)

ご監修:田宮 基裕 先生(大阪国際がんセンター 呼吸器内科 副部長)

HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対する治療選択肢は限られている中で、長期的な視点での治療シークエンスを考慮した薬剤選択が重要であると考えられます。
本コンテンツでは、HER2遺伝子変異陽性NSCLCの治療戦略及びBeamion LUNG-1試験の第Ib相1,2)におけるヘルネクシオス®の有効性、安全性、QOLについて、大阪国際がんセンター 呼吸器内科 副部長 田宮 基裕 先生にご解説いただきました。

1)社内資料:国際共同第I相試験(Beamion LUNG-1)[承認時評価資料]
2)Heymach JV. et al.: N Engl J Med 2025; 392(23): 2321-2333. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。

治療シークエンスを見据えた薬剤選択

HER2遺伝子変異陽性NSCLCは、現時点では治療選択肢が限られている疾患であることから、以下のポイントを踏まえ、治療シークエンスを見据えた薬剤選択を行うことが重要であると考えられます。
● 副作用の適切なマネジメント
副作用を適切にマネジメントすることで、治療を中断せずに継続することが重要であると考えられます。限られた治療選択肢の中で、一つの治療を長期的に継続することは、臨床的意義が大きいと考えられます。
●良好な全身状態の維持
ヘルネクシオス®の使用が検討される患者さんにおいては、本剤による治療後も後治療を受ける可能性を考慮し、後治療へ移行可能な全身状態を維持することが重要であると考えられます。副作用の発現頻度が低く、かつ副作用のグレードも軽度な治療選択を行うことで、患者さんの日常生活への負担を軽減し、全身状態の維持につなげられると考えられます。
●臨床成績(OS、PFS、ORRなど)の考慮
特に、進行固形がん領域では、ORRはPFS延長のサロゲートマーカーであり、PFS延長もまたOS延長のサロゲートマーカーの一つとして報告されています3)

したがって、より長期のPFSが得られる治療選択がOS延長を目指すうえで重要な要素と考えられます。

以上を踏まえ、ヘルネクシオス®を含めた治療選択を行う際には、“後治療へ移行できるか”という視点も併せて、治療シークエンス全体を見据えた検討を実施することが重要です。

3)Hua T. et al.: BMC Cancer 2022; 22(1): 1022.

また、治療の継続的な実施には、患者さんのQOLを考慮した治療戦略が重要です。
このような背景を踏まえて、今回は、ヘルネクシオス®の有効性、安全性、QOLについてご紹介します。

HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の予後(海外データ)

HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者のOS中央値は1.6年であり、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者と比較して予後不良であることが報告されています。
この背景には、従来HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対するチロシンキナーゼ阻害剤をはじめとする標的治療薬が存在していなかったことが、一因として考えられます。
現在では、チロシンキナーゼ阻害剤であるヘルネクシオス®などの標的治療薬が承認を受け、実臨床で使用可能となったことから、予後の改善が期待されています。

肺癌診療ガイドラインにおけるヘルネクシオス®の位置づけ

二次治療以降では、これまで分子標的治療薬は一剤のみでしたが、肺癌診療ガイドライン2025年版にヘルネクシオス®が掲載されました。ガイドラインでは、「二次治療以降でゾンゲルチニブ単剤療法を行うよう強く推奨する。」と記載されています。

ヘルネクシオス®の効能又は効果、用法及び用量

ヘルネクシオス®は、Beamion LUNG-1試験において有効性と安全性が検討され、日本では2025年9月に承認を取得しました。

ヘルネクシオス®の作用機序

ヘルネクシオス®は、経口投与可能な新規のHER2チロシンキナーゼ阻害剤です4)
エクソン20挿入変異等を有するHER2のチロシンキナーゼ活性を阻害し、下流のシグナル伝達を阻害することにより、腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられています5)
HER2選択性を高めた特性により、ヘルネクシオス®は、臨床においてもHER2遺伝子変異陽性NSCLCの腫瘍増殖及び疾患進行を抑制することが期待されます。

4)Heymach JV. et al.: N Engl J Med 2025; 392(23): 2321-2333.
5)ヘルネクシオス®錠60mg 電子添文 2025年11月改訂(第2版)

ここからは、ヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価した「国際共同第I相試験Beamion LUNG-1試験」をご紹介します。

試験概要

Beamion LUNG-1試験の第Ib相(用量拡大パート)では、進行/転移性のHER2変異陽性NSCLC患者を対象に、ヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価しました。
同試験では、日本を含む18ヵ国で241例が登録され、そのうち日本人患者は26例でした。
同試験の第Ib相用量拡大パートのうちコホート1では、まず初めに用量最適化相として、治療歴のあるHER2変異陽性NSCLC患者を、ヘルネクシオス®120mg群又は240mg群にランダムに割り付け、治療を実施しました。
その後、用量最適化相のデータを踏まえて、120mgを推奨用量とし、コホート1を含むすべてのコホートで240mg群への組入れは中止となりました。

 

試験結果

主要評価項目である客観的奏効率(ORR※1)は66.7%(50/75例、97.5%CI:53.8-77.5)と事前に規定された基準(ORR 30%)を上回りました(片側p<0.0001、検証的な解析結果、1標本z検定)。
また、副次評価項目である病勢コントロール率(DCR※2)は92.0%でした。
※1:ORR=CR+PR、※2:DCR=CR+PR+SD

FDAの指示に基づき、コホート1の全患者の6ヵ月以上の奏効期間フォローアップデータ及び3ヵ月安全性データを更新するため、追加解析が実施されました。
追加解析の結果、客観的奏効率(ORR)は70.7%(53/75例、95%CI:59.6-79.8)でした。

副次評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値は12.4ヵ月でした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された有害事象は75例中73例(97.3%)に認められました。
主な有害事象は下痢(54.7%)、AST増加(24.0%)、発疹(22.7%)、ALT増加(21.3%)などでした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された重篤な有害事象は3例(4.0%)に認められ、ALT増加、AST増加が報告されました。
ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された死亡に至った有害事象は報告がありませんでした。

中止に至った有害事象は2例(2.7%)に認められ、ALT増加、AST増加、血中ALP増加、GGT増加及び発熱が報告されました。
休薬に至った有害事象は25例(33.3%)に認められ、2例以上にみられた有害事象はAST増加、駆出率減少、発疹、ALT増加及び嘔吐が報告されました。
減量に至った有害事象は5例(6.7%)に認められ、AST増加、ALT増加、好中球数減少、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、GGT増加、高トランスアミナーゼ血症及び薬物性肝障害の疑いが報告されました。

つづいて、QOLに関連する患者報告アウトカムの結果をご紹介します。

副次評価項目であるEORTC QLQ-C30(IL19)身体機能ドメインは、5つの項目からなる機能スケールであり、スコア増加が改善を示します。
ベースラインの平均スコアは77.9(SD:24.68)でした。ベースラインからの変化量は、サイクル5の1日目で9.6(調整済み平均変化量、SE:1.64)、サイクル9の1日目で7.8(調整済み平均変化量、SE:2.28)でした。

NSCLC-SAQ(非小細胞肺癌症状評価質問票)は、進行性NSCLCの5つの症状領域を評価するための7項目の質問票であり、スコア減少が改善を示します。
ベースラインの平均スコアは7.2(SD:4.52)でした。ベースラインからの変化量は、サイクル5の1日目で−3.9(調整済み平均変化量、SE:0.46)、サイクル9の1日目で−3.4(調整済み平均変化量、SE:0.53)でした。

EORTC IL46は、全体的な副作用の影響を評価する単一項目の質問であり、スコア減少が改善を示します。
ベースラインの平均スコアは1.3(SD:0.71)でした。ベースラインからの変化量は、サイクル5の1日目で0.3(調整済み平均変化量、SE:0.11)、サイクル9の1日目で0.1(調整済み平均変化量、SE:0.10)でした。

【田宮先生のお⾔葉】

ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCでは、これまで多くの遺伝子変異例に対して、内服可能なTKIが標準的な治療選択肢として確立されてきました。しかし、HER2遺伝子変異陽性例では、有効なTKIが存在しないという、長年の課題がありました。
そのような状況のもと、HER2遺伝子変異を標的とする新たなTKIとしてヘルネクシオス®が発売されました。このヘルネクシオス®の登場により、HER2遺伝子変異陽性NSCLCの二次治療においても、TKIで治療を行うことが可能となりました。
しかし、EGFR遺伝子変異陽性例やALK融合遺伝子陽性例などの他のドライバー遺伝子変異陽性例と比較し、HER2遺伝子変異陽性NSCLCでは、現時点でなお治療選択肢が限られているため、一つの治療を可能な限り長く継続すること、さらにその後の治療へ適切につなげていくことを意識した、治療シークエンスを見据えた薬剤選択が重要であると考えます。
また、治療選択にあたっては、治療効果だけでなく、治療の継続性を支える観点からQOLも重要な判断要素になると考えられます。Beamion LUNG-1試験の第Ib相では、ヘルネクシオス®によりQOLスコアの改善が期待される結果も示されています。
これらの知見を踏まえ、HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療選択について、日常診療の中でご検討いただければと思います。
本コンテンツが、先生方の日常診療における治療方針決定の一助となれば幸いです。

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