代謝性疾患

MASLD/MASH診療の最前線 第2回 他科連携と将来展望

サイトへ公開:2026年03月16日 (月)

ご監修:
中川 勇人 先生(三重大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授) 玉城 信治 先生(武蔵野赤十字病院 消化器内科 副部長)

2023年、“alcoholic”や“fatty”といった用語が差別的であることを主な理由として、脂肪性肝疾患の新たな病名と分類法が提唱されました。
これにより、脂肪性肝疾患をsteatotic liver disease(SLD)と総称し、従来の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、メタボリック症候群の基準の一部を満たす場合に限定して、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)/代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)と診断されることになりました。
今回は、三重大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授 中川 勇人 先生と、武蔵野赤十字病院 消化器内科 副部長 玉城 信治 先生の2人のエキスパートをお招きし、MASLD/MASH診療の最前線についてお話を伺いました。
第2回の今回は、肝線維化進展例を同定するための診療科連携、そして将来的な個別化医療に向けたMASLDの最新研究に関するインタビュー内容をご紹介します。

Summary

  • 海外の報告では、MASLDは心血管疾患による死亡が多いが1)、心代謝系危険因子の改善によってリスク低減が期待される2)
  • 肝線維化はMASLDにおける肝硬変や肝臓癌の発生リスクと相関し、線維化進展例の拾い上げにはFIB-4 index≥1.3を基準とした一次スクリーニングが有用である
  • MASLD患者はヘテロな集団のため、現在病態に応じたサブタイプ分類とそれによる臨床試験の効率化やテーラーメード医療を目指した病態解明が行われている
  1. Angulo P, et al.: Gastroenterology. 2015; 149(2): 389-97.e10.
  2. Tamaki N, et al.: Aliment Pharmacol Ther. 2024; 60(1): 61-69.
 

MASLDの長期的なアウトカムと、それを踏まえた診療のポイントを教えてください

玉城先生:
まず、海外の報告では、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者さんの死因は心血管疾患や他臓器癌などの非肝疾患が多く、肝硬変や肝臓癌で亡くなる患者さんはその1/10程度です1)。全体としては心血管疾患で亡くなる方が多いのが実態ですが、これは心代謝系危険因子の改善によってリスクの低減が期待されます2)。一方、肝硬変や肝臓癌に進行する可能性のある一部のハイリスク症例では肝臓専門医によるフォローが必要です。近年の研究では肝線維化が肝硬変や肝臓癌の発生リスクと最も相関していることが明らかとなり、肝線維化ステージ0と比較した肝関連死亡リスクはステージ3で16.7倍、ステージ4で42.3倍といわれています3)。したがってこのような線維化進展例をいかに絞り込み、治療介入していくかがポイントになります。
しかしMASLD患者さんのほとんどは肝臓内科医の下にいないため、こうした患者さんの絞り込みを行うには、代謝疾患の診療に当たられている先生方に、FIB-4 index(FIB-4)をはじめとするスコアリングシステムで肝線維化を評価していただき、リスクがありそうな患者さんがいれば専門医へ紹介していただくことが重要になってきます。現在最も広く利用されているスコアリングシステムはFIB-4で、一次スクリーニングにはFIB-4≥1.3という基準を用いていただくのがよいと思います。ただしFIB-4は陽性的中率がそれほど高くない点に注意が必要です4)。つまり、「FIB-4≥1.3なら肝硬変」とはならないので、患者さんにはあくまで「疑いがあるから一度調べてください」という説明になります。

※ FIB-4 index:年齢、AST、ALT、血小板数の組み合わせによる肝線維化診断法
  FIB-4 index=年齢(歳)×AST(IU/L)/血小板数(109/L)×ALT(IU/L)

中川先生:
玉城先生がおっしゃるように、MASLD患者さんは実はほとんど私たちのところにはおらず、糖尿病内科や循環器内科、あるいはご開業の先生のところにいらっしゃるか、そもそも病院にかかっていない状況です。そのため代謝疾患を診療される先生方にMASLDハイリスク群の拾い上げを意識していただくことで、早期介入が可能になると考えます。たとえば日本肝臓学会では、奈良宣言といってALT>30の症例は、かかりつけ医で血液検査や腹部超音波検査を行っていただくことを推奨しています(図1)。このALT>30をひとつの基準に、脂肪肝のチェックや、FIB-4などを活用した線維化スクリーニングを実施いただき、リスクが高い症例ではぜひ肝臓専門医と連携をとって診療にあたっていただきたいと思います。
 

先生方のご施設における地域連携あるいは他科連携はどのようなご状況ですか?

玉城先生:
私たちの地域ではようやくこのような連携の認知が進んできて、地域の糖尿病内科からの紹介が非常に多くなってきています。院内でも内分泌代謝内科から紹介いただくことが増えています。一方循環器内科との連携はもう一息といったところです。これは当院が三次救急病院で肝臓の評価まで手が回らないためだと思いますが、循環器内科からの紹介を増やすことも今後の課題だと考えています。

中川先生:
三重県では、消化器内科と糖尿病・内分泌内科の合同研究会やご開業の先生方を対象としたMASLD勉強会を行い、ハイリスク群を拾い上げる方法や治療の最新情報などを共有して紹介促進を図っているところです。
また当院では消化器内科と糖尿病・内分泌内科は電子カルテにFIB-4が表示されるシステムで、糖尿病・内分泌内科の先生方にも線維化の評価を意識していただいています。循環器内科の外来にも線維化の評価を意識していただきたい患者さんは多くいらっしゃると思うものの、玉城先生のご施設と同様に当院の循環器内科も循環器疾患の管理が最優先となる状況のため、FIB-4の表示は今のところ消化器内科と糖尿病・内分泌内科のみとしています。
ただし最近は、冠動脈CTで肝線維化の進行が疑われて消化器内科に紹介されてくるシチュエーションが増えています。これは放射線科の先生による肝臓の形態変化の記載が契機になっているのですが、肝臓の形態変化が起きているということは線維化がかなり進行しているということで、裏を返せば、循環器内科にも線維化進展例がたくさん存在するということです。そのため循環器の先生方に向けた啓発もより強化しなければならないと思っています。

中川先生の研究グループでは、将来的な個別化医療に向けたMASLDの最新研究が行われていると聞きます。どのような研究なのか概要を教えてください

●研究の背景にあるMASLDのアンメットメディカルニーズ

中川先生:
現在私たちはトランスクリプトームをはじめとするマルチオミクス解析にAI解析を組み合わせて統合解析するアプローチによって、MASLDの病態解明やバイオマーカー、治療標的の探索を行い、患者さんの層別化を試みています。
この研究の背景にあるのはMASLDのアンメットメディカルニーズです。一番は特異的な治療薬がないことで、これまで多くの臨床試験が失敗に終わっています。理由はいくつか考えられますが、そのひとつにMASLD患者さんが非常にヘテロな集団であることが挙げられます。MASLDの病態は肥満や生活習慣、糖尿病や脂質異常症などの併存疾患をはじめさまざまな要因が複雑に絡み合って形成され、それぞれの要因の重みも患者さんごとに異なります。さらに過去に行った研究では、たとえば脂質代謝経路などは病初期と進行期でかなり異なることが分かっており、その病態はひとりの患者さんの中でも病期によって変化します5)。そのため、MASLD患者さんを病態に応じたサブタイプに分類できれば、臨床試験の効率化やテーラーメード医療につながり、フォローアップの個別化に寄与する可能性も考えられます(図2)。

・トランスクリプトーム解析とは
ある特定の状況下で細胞内や組織内に存在するすべてのmRNAを網羅的に測定・定量し、特定の組織における遺伝子の発現状況を包括的に把握する手法
藤原直人, 中川勇人. 医学のあゆみ. 2024; 289(5): 345-350.
 

●研究概要と将来展望

中川先生:
私たちはすでに1,000例規模の日本人脂肪性肝疾患の肝生検トランスクリプトーム解析を実施しており、ここにゲノムデータや血清プロテオームを加えたマルチオミクスデータベースを構築し、脂肪性肝疾患の個別化医療を目指した研究を進めています。直近ではAI解析によって肝発癌と関連する線維の形態を見出し、これをシングルセル空間トランスクリプトームと統合解析することによって、MASLDにおける肝発癌微小環境を明らかにしました6)。また、血清プロテオミクス解析から、肝臓で起きていることを血液でみられるようなバイオマーカーの確立にも注力しており、将来的には血液バイオマーカーによる個別化医療を目指しています。血液でみられるメリットは、簡便で非侵襲的なだけでなく、病態のリアルタイムモニタリングが可能となる点も大きいと思います。さらに今後は、心血管イベントに注意すべき患者さん、肝臓に注意すべき患者さん、そもそもリスクが高くない患者さんというのをバイオマーカーベースで層別化する取り組みも重要だと考えています。

玉城先生:
MASLDは「シンドローム」であって単一の病気ではないので、さまざまな病態をごちゃ混ぜで解析すると、結局何も分からないということになってしまいます。ですので、患者さんごとに病態を分けて検討するのは非常に大事なことだと思います。
実は私も現在MASLD患者さんのデータベースを利用して、臨床アウトカムの予測に活用できるクリニカルパラメータを、AIモデルを使って検討しているところです。しかし中身がブラックボックスなのであくまで結果論に過ぎず、なぜそのパラメータが臨床アウトカムの予測に有効なのかは不明なままです。そのため、こうしたオミクス解析などで病態解明が進んで、将来的に手持ちのAI解析結果に結びついてくれると嬉しく思います。

中川先生:
先ほど触れた直近の研究はまさにそのような内容です。AI解析でまず答えを知ったうえでシングルセル空間トランスクリプトームを使って病態の観点に立ち戻り、AIがなぜその答えを出してきたのか明らかにするというもので、「From AI to Bench」などと呼んでいます。私もAI解析で得られた結果はそれがなぜなのか実際のところが分からないというのがいつももやもやする点で、それを逆手にとって一度病態に戻すことを考えました。最終的にはより簡便な臨床マーカーに落とし込み、誰もが納得して使えるのがベストだと思います。玉城先生のAIのデータが発表されるのも非常に楽しみですね。

おわりに

玉城先生:
肝硬変や肝臓癌の成因は古くはC型肝炎が多くを占めていましたが、近年は劇的に減少し、現在では非ウイルス性肝疾患が主な成因となっています7,8。MASLD/MASHによる肝硬変・肝臓癌も増加の一途をたどっている状況で、今後さらなる増加が予想されます。これは診療科連携がまだまだ不十分で、見過ごされているMASLD/MASH患者さんがたくさんいることのあらわれではないかと思います。こうした患者さんを早く見つけて適切な治療やサーベイランスに結び付けていくには糖尿病や心臓を診ている先生方と協力していくことが重要になるため、今回の名称変更が協力体制の構築を図るいいきっかけとなることを望んでいます。

中川先生:
ウイルス性肝炎を背景とした肝臓癌は治療可能な早期に発見できることが多いのに対し、MASLD/MASHベースの肝臓癌は発見された時点で腫瘍径が大きかったり、ステージが進行していたりすることが今問題となっています。今回MASLDが代謝機能障害をベースとした脂肪性肝疾患と定義されたことで、MASLD診療における代謝機能異常の治療の重要性がよりしっかりと認識されることが期待され、今後はさまざまな診療科との連携がより重要になってくると思います。今回の名称変更が、消化器内科医にとっては心血管イベントなど肝外合併症に注意を払うこと、糖尿病や循環器の専門医にとっては肝臓の病態進展に注意を払うことのさらなる啓発につながることを期待しています。

  1. Angulo P, et al.: Gastroenterology. 2015; 149(2): 389-97.e10.
  2. Tamaki N, et al.: Aliment Pharmacol Ther. 2024; 60(1): 61-69.
  3. Dulai PS, et al.: Hepatology. 2017; 65(5): 1557-1565.
  4. Tamaki N, et al.: Clin Gastroenterol Hepatol. 2023; 21(2): 380-387.e3.
  5. Kawamura S, J Clin Invest. 2022; 132(11): e151895.
  6. Fujiwara N, et al.: Hepatology. 2025 Apr 22. doi: 10.1097/HEP.0000000000001360.
  7. Enomoto H, et al.: Hepatol Res. 2024; 54(8): 763-772.
  8. Tateishi R, et al.: J Gastroenterol. 2019; 54(4): 367-376.

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