COPDと心不全 併存に対する診断と治療 薬物療法編
サイトへ公開:2023年06月29日 (木)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺固有の疾患であるだけでなく、全身性疾患でもあり、全身にさまざまな併存症を認めます。超高齢化時代を迎えるにあたり、心不全患者数の著しい増加が予想され、互いの併存がCOPDおよび心不全の予後と関連していることがわかっています。薬物療法においては、β遮断薬とβ2刺激薬の併用に対する論議がしばしば取り上げられ、十分な治療介入が行われていない可能性が懸念されています。座談会「COPDと心不全-併存に対する診断と治療-」の第3回目は薬物療法編として、COPDと心不全併存時の薬物療法の留意点を中心に討議いただきました。
【まとめ】
- COPDガイドラインにおける心不全併存時の薬物療法
- COPDに対するβ遮断薬の使用
- 心不全ガイドラインにおけるCOPD併存時の薬物療法
- 心拍数管理の重要性
- 重症患者に対する薬物療法
- 高齢者の治療の留意点
座談会「COPDと心不全-併存に対する診断と治療-」の第3回目は薬物療法編として、COPDと心不全併存時の薬物療法の留意点を中心に討議いただきました。
PART 3
COPDと心不全の薬物療法
【司会】

松元 幸一郎 先生 (福岡歯科大学総合医学講座呼吸器内科学教授)

井手 友美 先生 (九州大学循環器内科冠動脈疾患治療部講師・診療准教授)

大西 勝也 先生 (大西内科ハートクリニック院長)

古藤 洋 先生 (九州中央病院副院長)

室 繁郎 先生 (奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授)
(取材時の職位、所属となっております/ 五十音順)
日時/場所
2022年9月10日(土)/帝国ホテル東京
COPDガイドラインにおける心不全併存時の薬物療法
松元 はじめに古藤先生から、2022年に発表された『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』1)(以下、COPDガイドライン)における心不全併存時の管理についてご紹介いただきます。
古藤 COPDガイドラインでは、「心不全の治療はCOPD合併例においてもガイドラインに準じてACE阻害薬、ARB、β遮断薬、利尿薬による治療を行う」とされています1)。また、選択的β₁遮断薬に関しては、「呼吸機能への影響が小さく、COPDを併存した心不全患者の大多数においても安全に使用可能である(エビデンスA*)」と記載されています。ただし、在宅酸素療法を実施しているような最重症のCOPDに対する安全性は十分に示されていないという但し書きが入っています。
一方、「COPDに対する吸入薬を中心とした治療は、心不全に対する治療と並行して施行する」と明記されています。長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β₂刺激薬(LABA)およびその配合薬(LAMA/LABA)は、頻脈という観点から心不全に影響がある可能性が懸念されてきましたが、その後の試験でその可能性は否定されています2,3)。
*エビデンスA(強):効果の推定値が推奨を支持する適切さに強く確信がある。
COPDに対するβ遮断薬の使用
松元 COPDガイドラインでは、「併存症や合併症に対して必要に応じてそれぞれの専門医と連携し、疾患ガイドラインが存在する場合にはそれらに準拠した管理を考慮する」とされています1)。循環器内科の立場から、大西先生はCOPDの併存する心不全に対するβ遮断薬の使用についてどのようにお考えでしょうか。
大西 まず、心不全に対してβ遮断薬は重要な薬剤ですが、COPDが存在すると気管支攣縮を恐れてβ遮断薬の使用を控えるケースは少なくありません。実際に、わが国の慢性心不全患者を対象とした多施設共同前向き登録観察研究であるJCARE-CARD研究では、退院時にβ遮断薬を使用しない理由として、COPDの併存が最も高いオッズ比で同定されています4)。ただ、心不全併存のCOPD患者においては、β遮断薬の投与によって心拍数コントロール、エンドセリン-1の上昇や炎症性サイトカイン上昇の抑制などが報告されており5)、適切に使用することが重要です。
心不全ガイドラインにおけるCOPD併存時の薬物療法
松元 それでは、『急性・慢性心不全診療ガイドライン』(以下、心不全ガイドライン)6,7)では、COPD併存心不全に対してどのような治療が推奨されているのでしょうか。
大西 心不全ガイドライン7)では、治療アルゴリズム(図**)があり、左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)で心不全に対する治療が分かれています。COPDを併存したHFrEFに対する治療法としてですが、COPDガイドラインと同様、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が推奨されており、その推奨度は、推奨クラスI、エビデンスレベルAと最も強いものです(表)6)。また、LABA、LAMA、両者の併用によるCOPDの治療は、「原則として心不全治療と並行して継続する」こととされており、LAMAは「心不全併存時の呼吸困難や呼吸機能を改善する」と明記されています6)。
β遮断薬に関してですが、心不全ガイドラインにおいても、「COPDを併存した心不全患者の大多数においても安全に使用できる」6)とあります。いずれにしても、β2刺激薬との併用に際しては、十分に呼吸器症状に注意を払う必要はあるかと思います。
**ダパグリフロジン、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)はHFpEFにも使用可能。(2025年4月時点)

心拍数管理の重要性
松元 COPDと心不全が併存している状況において、何を重視して管理すべきでしょうか。
大西 心拍数の管理はとても重要だと思います。動物モデルでは、持続性の頻脈によって心不全を発症することが示されています8)。COPDに対しては、COPDそのものの治療をしっかりと行うことによって、反射性の心拍数は抑制されます。しかし、そこで抑制されなかった余分な心拍数が、将来的に心不全の発症に関与してくる可能性が考えられます。また、心不全患者は交感神経の賦活化により頻拍となっており、心筋のエネルギー消費の効率が悪化している状態にあるため、これを是正するためにも心拍数の管理は重要です。
井手 低酸素になると、例えば虚血のときに最初に出てくる変化が拡張機能障害です。頻拍になると酸素消費量が増加しますが、心不全を併存している場合、わずかに心拍数が増加するだけで酸素消費量が増え、拡張と収縮に利用できる酸素が相対的に減少しますので、ATPを大量に必要とする心臓では非常に不利な状態に陥ることになります。
室 長時間作用性気管支拡張薬(LABDs)で管理可能なCOPD患者では、頻脈で困った経験はあまりありません。ただ、薬理作用から考えてLABDsで脈拍が早くなることは十分に考えられます。また、LABDsだけで症状コントロールができない(呼吸困難が十分に改善しない)場合、短時間作用型の吸入β2刺激薬(SABA)を併用することがあり、SABAでは時々動悸や頻脈を経験いたします。このような場合、気流閉塞改善・身体活動性改善と副作用のリスク・ベネフィットで悩ましいです。β2刺激による心拍数の増加、あるいは強い呼吸困難や低酸素血症による交感神経の賦活化のどちらが全身に悪影響を及ぼすのでしょうか。
大西 どちらも関与していると考えられます。
重症患者に対する薬物療法
松元 交感神経が賦活化しているような重症の心不全を合併しているCOPD患者に対するLAMA/LABA投与は、循環器系に対する悪影響が本当にないといえるでしょうか。先生方のご意見をお聞かせください。
古藤 私自身は、COPDに心不全が併存している悪影響のほうが大きいと思います。COPDの重症例は軽症例に比べて、心不全がより強く病態に関与していると考えられますので、心不全の治療も可能であれば実施したほうがよいと考えています。
井手 循環器内科の立場からは、基本的には重症心不全が併存していても、COPDが症状や病態に関与していると判断される場合には、心不全増悪に注意しながらLAMA/LABAを適切に使用します。
松元 繰り返しになりますが、β2刺激薬とβ遮断薬との併用、特に重症例については、十分に呼吸器・循環器症状に注意を払う必要はあるかと思います。
高齢者の治療の留意点
松元 COPDも心不全も高齢者に多いという共通項があります。高齢者という観点から、治療にあたっての留意点について教えてください。
大西 高齢者の心臓は硬く、前負荷の影響を受けて血圧が大きく変動しやすい状態にあります。前負荷が減少すると、血圧は低下します。COPDは重症化するほど、労作時に肺の過膨張が起こり、血行動態が変動しやすくなります。この点を念頭に置いた治療が重要です。
松元 特に高齢者の心不全とCOPD併存例は、いかに身体活動性を保てるかが重要ですね。
大西 はい。結局は、吸気により取り込まれた酸素をいかに骨格筋に運び、ミトコンドリアをいかに機能させるかが重要となります。口から吸い込まれた酸素は肺から全身へと送り出され、赤血球を媒体として心臓のポンプ機能により運搬されますが、骨格筋へと到達するまでのどこかの過程が障害されると、最終的にミトコンドリアにおいてATP産生ができず、身体活動ができなくなります。したがって、身体活動性を維持するには肺も心臓も正常に機能する必要があり、問題があればきちんと対処しなければなりません。
また、見過ごされがちなのは貧血です。鉄は赤血球を作るだけでなく、ミトコンドリアの代謝のエネルギー源ですから、鉄が不足すると心筋、骨格筋、呼吸筋の収縮力が落ちることになります。
松元 ありがとうございました。本座談会では「COPDと心不全-併存に対する診断と治療-」と題して、COPDと心不全の病態、診断、薬物療法について討議いただきました。わが国では一層の高齢化が進むことから、今後、COPDと心不全を併存する患者の増加が考えられます。COPDと心不全は併存しやすいということを念頭に置き、確実に診断、治療していくことが大切だと考えます。
References
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会(編).COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 東京:メディカルレビュー社;2022.
- Tashkin DP, Celli B, Senn S, et al; UPLIFT Study Investigators. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2008 ; 359 : 1543-54. *1, *2
- Wise RA, Anzueto A, Cotton D, et al; TIOSPIR Investigators. Tiotropium Respimat inhaler and the risk of death in COPD. N Engl J Med. 2013 ; 369 : 1491-501. *2, *3
- Hamaguchi S, Kinugawa S, Sobirin MA, et al; JCARE-CARD Investigators. Mode of death in patients with heart failure and reduced vs. preserved ejection fraction: report from the registry of hospitalized heart failure patients. Circ J. 2012 ; 76 : 1662-9.
- Onishi K. Total management of chronic obstructive pulmonary disease (COPD) as an independent risk factor for cardiovascular disease. J Cardiol. 2017 ; 70 : 128-34.
- 日本循環器学会/日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(閲覧:2022-11-08) - 日本循環器学会/日本心不全学会.2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/
uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf(閲覧:2022-12-12) - Shinbane JS, Wood MA, Jensen DN, et al. Tachycardia-induced cardiomyopathy: a review of animal models and clinical studies. J Am Coll Cardiol. 1997 ; 29 : 709-15.
*1 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた
*2 著者のなかにベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれる
*3 著者にベーリンガーインゲルハイム社より研究費または謝礼などを受領している者が含まれる
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COPDと心不全 併存に対する診断と治療 診断編
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