抗凝固療法の最前線:個々の患者さんに最適な医療を目指して(静止画)

サイトへ公開:2026年08月07日 (金)

ご監修:坂元 裕一郎 先生(豊橋ハートセンター 循環器内科 部長/医局長)

インタビュー:循環器疾患の専門病院として、高度かつ安全な医療の提供に尽力~個々の患者さんに最適な医療を目指して~

豊橋ハートセンター 循環器内科 部長/医局長
坂元 裕一郎 先生

2026年3月6日 豊橋ハートセンターにて開催

この記事でわかる4つのポイント
1.    アブレーション治療を検討する患者像
2.    血栓塞栓症のリスクを考慮した「アブレーション周術期における抗凝固療法」の重要性
3.    プラザキサを適切に継続するために重要な服薬指導
4.    抗凝固療法中止の判断を慎重に行う必要性

 心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下、アブレーション)の施行数は年々増加しており、その背景として技術やデバイスの進歩が挙げられる。本インタビューでは、心房細動治療のエキスパートである坂元裕一郎先生に、アブレーション周術期における抗凝固療法の実際、プラザキサ投与時の注意点、アブレーション周術期の抗凝固療法の今後の展望などについて伺った。

心房細動診療における豊橋ハートセンターの取り組み

 当院は愛知県豊橋市にある循環器疾患専門病院であり、1999年の開院以来、20年以上にわたり、循環器診療に携わってきました。心房細動に対する認知の向上や治療技術の進歩に伴い、アブレーションを施行する患者さんは年々増加しています。こうした中で、医師・看護師・薬剤師を含む医療チームが連携し、患者さんの10年、20年先を考えた医療の提供を目指して診療にあたっています。また、豊橋ライブデモンストレーションコース等の各種イベントを通じて、「明日からの診療」に活かせる知見の共有を行い、より適切な治療につなげることを目指しています。

アブレーション治療の適応と患者さんへの説明

 心房細動患者に対する早期リズムコントロール(アブレーション治療を含む)は、心血管イベントのリスク低減につながることが報告されています1)。そのため、症状に悩まされている患者さんに対しては積極的にアブレーション治療を検討しています。特に年齢では判断せず、高齢であっても活動性の高い患者さんは検討対象です。このほか、心不全を伴う心房細動については、かつては治療が難しいと考えられていましたが、現在ではアブレーション治療の有効性が示されており、本邦のガイドラインでは「明らかな基礎心疾患をともなわず、心房細動起因性の低左心機能が強く疑われる心房細動患者において、死亡率や入院率を低下させるためのカテーテルアブレーション」が推奨クラス I、エビデンスレベルCで記載されています2)
 一方、侵襲的な治療であることから、アブレーション治療を躊躇する患者さんも見受けられます。リスクとベネフィットを十分に説明するとともに、罹病期間が長くなるほど治療成績が低下する可能性についてもお伝えし、ご家族と相談のうえで実施の判断を行っています。

・ポイント
心房細動の症状があり活動性の高い患者さんに対しては、年齢を問わずアブレーション治療を検討する。

アブレーション周術期における抗凝固療法

 血栓塞栓症は、発症すると重篤な後遺症を残し、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があるため、アブレーション周術期には特に注意が必要な合併症です。アブレーション施行時、左心房内に血栓が存在する場合、カテーテル操作に伴い血栓が脳へ移行するリスクがあることから、アブレーション周術期における適切な抗凝固療法は不可欠だと考えています。近年、従来の熱エネルギーアブレーションに代わりパルスフィールドアブレーション(PFA)が登場しました。PFAでは、熱エネルギーに特有な合併症の低減が報告されていますが、周術期の血栓塞栓症が明確に低下するという十分なエビデンスは現時点ではありません。したがってPFAにおいても、抗凝固療法の重要性は従来の熱エネルギーアブレーションと変わらないと考えられます。

・ポイント
PFAを含むアブレーション周術期では血栓塞栓症のリスクを考慮し、抗凝固療法は不可欠である。

RE‑CIRCUIT試験の結果がもたらしたガイドラインへの影響

 本邦のガイドラインでは、RE-CIRCUIT試験3)の結果を受けて、アブレーション周術期には、プラザキサによる「休薬なしでAF(心房細動)アブレーションを施行する」ことが推奨クラスI、エビデンスレベルAとして記載されています(表)4)。当院では、RE-CIRCUIT試験の結果やガイドラインにおける推奨を踏まえ、プラザキサをアブレーション周術期に使用する抗凝固薬の選択肢の一つとしています。プラザキサには特異的中和剤であるプリズバインドがあり、プラザキサの抗凝固作用を迅速かつ完全に中和し、その効果は持続的であることが示されています5)

【エビデンス解説:RE‑CIRCUIT試験】
 本試験は、日本を含む11ヵ国が参加した国際共同無作為化実薬対照比較試験であり、発作性または持続性の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者678例を、プラザキサ継続群(150mg×2回/日)またはワルファリン継続群[目標プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR):2.0~3.0として用量調整]に1:1で無作為化割付けし、アブレーション開始から施行後8週までの安全性と有効性を検討した(図1)3)
 主要評価項目であるアブレーション施行後8週までの国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血の発現率は、プラザキサ継続群1.6%、ワルファリン継続群6.9%であり[絶対リスク差 -5.3%、95%CI(-8.4, -2.2)、名目上のP値<0.001、χ²検定]、プラザキサ継続群で有意なリスク減少が認められた[ハザード比(HR)0.22、95%CI(0.08, 0.59)、Cox比例ハザードモデルおよびWald信頼区間] 【探索的解析結果】 (図2)3)
 全ての有害事象の発現率は、プラザキサ継続群66.6%、ワルファリン継続群71.6%であった。プラザキサ継続群において重篤な有害事象は63例で認められ、主なものは心房粗動(20例)で、また投与中止に至った有害事象は19例で認められ、主なものは胃腸障害(8件)であった。なお、両群とも試験期間中の死亡例は報告されなかった(図3)3)

【エビデンス解説:プリズバインドの安全性】
 重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーがあらわれることがある(0.2%)6)
 主な副作用は、血小板減少症、脳卒中、頭痛、心停止、心房血栓症、徐脈、上室性頻脈、深部静脈血栓症、低血圧、肺塞栓症、下痢、びらん性胃炎、発疹、四肢痛、溢出、注入部位疼痛が報告されている(いずれも1%未満)。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーを含む過敏症状があらわれることがある(0.2%)。

服薬継続と患者指導の重要性

 プラザキサに限らず抗凝固療法は「予防」療法であり患者さんにとって効果を実感しにくいことから、抗凝固薬の服用継続の意義を十分に理解していただくことが重要です。特に心房細動に起因する血栓塞栓症を予防する必要性について説明し、服薬継続への理解を深めることが求められます。
 当院では医師と薬剤師が連携してプラザキサの服薬指導を行っています。まず医師が服用方法や注意点を説明し(顎を引いて、コップ1杯の水とともに服用など)、その後、薬局で薬剤を渡す際に薬剤師があらためて説明を行う体制としています。

・ポイント
プラザキサを適切に継続するには、服薬継続の意義理解と、医師と薬剤師の連携による適切な服薬指導を行うことが重要である。

【指導箋リニューアルのご紹介】

服薬継続を支援するため、先生方のお声をもとに、プラザキサ指導箋をリニューアルしました(図4)。
患者さんの理解と安心につなげるツールとしてご活用いただけます。

・心房細動と脳梗塞の関係、服用の意義をイラスト付きで整理
・湿気に注意が必要な点や、服用時、腎機能低下時や出血時の注意をわかりやすく記載
・文字数・構成を見直し、短時間でも説明しやすいように改善

本指導箋は、[資材発注サイト(https://bij-kusuri.jp/request/)]よりご発注いただけます。

抗凝固療法中止の判断は慎重に

 抗凝固療法の中止に関しては、慎重に判断する必要があります。ホルター心電図による24時間モニタリングは、アブレーション後の不整脈再発の評価に広く用いられていますが、われわれの検討では、2週間モニタリングと比較して、24時間モニタリングでは再発が検出されない割合が高いことが示されました(図5)7)。この結果は、24時間モニタリングでは再発が十分に捉えられていない可能性を示唆するものと考えられます。こうしたことから、アブレーション技術やデバイスが進歩した現在においても、抗凝固療法中止の判断は慎重に行う必要があり、個々の患者さんのリスクを十分に評価したうえで中止を検討することが望ましいと考えています。

・ポイント
ホルター心電図による24時間モニタリングでは、不整脈の再発が十分に捉えられていない可能性があり、抗凝固療法中止の判断は慎重に行う必要がある。

アブレーション周術期を含む抗凝固療法の今後の展望

 アブレーション治療は、技術やデバイスの進歩により年間の施行数が増えていますが、周術期および長期にわたる抗凝固療法の適切な管理は、引き続き重要な課題と考えられます。現時点においても、抗凝固療法の重要性は高く、その中止に関しては慎重な判断が求められます。また、個々の患者さんのリスクや価値観を踏まえた意思決定(Shared Decision Making)の重要性は、今後さらに高まると考えられます。

<文献>

  1. Kirchhof P, et al. N Engl J Med 2020; 383(14): 1305-1316.  
  2. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2024年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/03/JCS2024_Iwasaki.pdf(2026年4月閲覧)  
  3. Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376(17): 1627-1636.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました  
  4. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf(2026年4月閲覧)  
  5. プリズバインド 承認時評価資料
    Yasaka M, et al. Res Pract Thromb Haemost 2017; 1(2): 202-215.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました  
  6. プリズバインド添付文書 2025年12月改訂(第6版)  
  7. Naganawa H, Sakamoto Y, et al. J Arrhythm 2025; 41(5): e70196.

 

表:AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル
-2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版不整脈非薬物治療-

日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf (2026年4月閲覧)

図1: 試験概要(RE-CIRCUIT試験)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376(17): 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

図2: ISTH基準による大出血(RE-CIRCUIT試験:主要評価項目)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376(17): 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

図3:安全性(RE-CIRCUIT試験)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376(17): 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました
社内資料

図4:プラザキサ指導箋

図5ホルター心電図の計測時間と心房細動の検出

Naganawa H, Sakamoto Y, et al. J Arrhythm 2025; 41(5): e70196.

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P-Mark 作成年月:2026年7月