SGLT2阻害薬による心不全治療における患者指導のポイント
サイトへ公開:2022年01月31日 (月)
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ご監修:猪又 孝元 先生
新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授
2021年11月13日 リモートにてインタビュー実施
心不全の治療においては、薬物治療とともに患者指導が大変重要です。
近年、慢性心不全に対してSGLT2阻害薬をはじめとした新規薬剤の使用が可能となり、心不全の治療戦略の多様化とともに患者指導についても患者個々の病態や投与薬剤により指導方法を変える必要があります。本コンテンツでは、猪又先生に、SGLT2阻害薬を中心とした心不全治療における患者指導のポイントについてご解説いただきます。
心不全診療における患者指導のポイント
私の施設は新潟県下で数少ない三次救急医療機関であり、急性心不全や難治性・重症の心不全の診療に特化しています。周囲の医療機関との連携については、当院の関連施設に連携先の拠点を置かせていただいて各施設の急性・難治性・重症の心不全患者さんの診療や治療方針の決定を行い、医療圏の急性・難治性・重症の心不全の診療をカバーしています。
当院を受診されるような急性・難治性・重症の心不全患者さんは心不全という疾患の知識をすでにおもちの方が多いとの前提で指導を始めることが多いのですが、ご家族を含めて正しく理解されている方は少ないです。たとえば、「心不全は突然心臓が止まって死んでしまう病気」というイメージをもたれている方が多い印象ですが、心不全のほとんどは5~10年かけてゆっくりと進行していくという病態である点を説明し、長期にわたっての治療を意識していただきます。
心不全患者さんの指導においては、一般的には高血圧をはじめとした生活習慣病の管理により心不全の進行を遅らせることが重要です。そのうえで、心不全が進行した場合には主に予後を改善する薬剤による薬物治療を行います。しかし、各種心筋症をはじめとした難治性疾患が多い当科においては、患者指導の役割として心不全の自然経過を緩徐にするという役割は限られ、再入院につながる増悪イベントの回避が主眼ともいえます。
指導において重要なのは「十分な塩分制限」、「毎日の体重測定」、「感染予防」の3つで、いずれも具体策を提示することが大切です。塩分制限については、新潟県は全国的にみると塩分摂取量が比較的多く、患者さんにはまず塩分について意識していただくために食品表示での塩分の配合量を確認してもらうように指導しています。ただし、高齢の患者さんなどはそれが難しいこともありますので、たとえば「だしを十分に使って味付けを薄くして、味が薄いと感じる場合には少し醤油を垂らしてください」などの具体的な指導もしています。体重測定については、たとえば入浴前や食事後などの同じタイミングに同じ着衣で1日1回測定していただきます。そのうえで、1週間で2~3kg増加している場合には塩分を摂りすぎていないかなどを確認し、息切れや浮腫みなどの症状が出る前の黄色信号の段階で兆候を捉え、それでも体重が増えつづけたり症状が出てくるようであれば病院を受診していただきます。感染予防については、手洗いやうがいの徹底、ワクチンの推奨などの指導を行います。
高齢の患者さんへは、指導のポイントを絞って個々の生活パターンにうまく組み込めるように指導します。具体的には、いつ体重を測定するか、体重が増えたらどう行動するか、いつ薬剤を服用するか、服用する際に薬剤をどこに置くか、飲み忘れをどう把握するか、などについてです。その際に重要なのは、ご家族など患者さんを見守る人の存在です。独居の患者さんが増えている現況では、訪問診療のスタッフなどとの情報交換がますます重要になるでしょう。
他職種との連携のポイント
メディカルスタッフとの連携については、多職種心リハカンファレンスを定期的に開催し、難治性心不全例を中心に情報交換を行っています。薬剤師には服薬コンプライアンスを、看護師には生活指導と心不全増悪サインの拾い上げを主に担っていただいています。
メディカルスタッフによる患者教育にあたっては、その優先順位についてしっかりと理解したうえで行うことが重要です。たとえば薬剤師は患者教育において服用薬剤についての説明を中心に考えている方が多い印象ですが、本当に重要なのは薬剤を確実に服用しているか、すなわち服薬コンプライアンスの確認だと考えています。服用忘れを防ぐための確実な方策は現在のところなく、患者さんに口頭で伺っても時に服用していないことを隠されることもありますので、患者さんに薬剤を持参していただいての残薬確認など、工夫が必要です。看護師については、心不全の増悪兆候の捉え方は指導されていても、増悪兆候を捉えた場合の対処法までは指導が行き届いていない場合があります。そういった課題が隠れている可能性があるので、その辺りは医師が薬剤師や看護師に指導して、確実に実施していかねばなりません。したがって、多職種カンファレンスに医師が参加することは大変重要です。
近年SGLT2阻害薬が慢性心不全に対して使用可能となりましたが、多領域にまたがる薬剤ですので、これを契機に循環器内科と糖尿病内科など診療科をまたいだ診療連携が進むことに期待しています。
心不全診療におけるSGLT2阻害薬治療のポイント
心不全領域では十数年間新薬が登場していない状況が続きましたが、近年SGLT2阻害薬などの新規薬剤が続々と登場し、臨床で使用可能になっています。
私は現在、SGLT2阻害薬を従来の標準治療を行っても心不全増悪や再入院を防ぐことができない収縮不全の患者さんを中心に投与しています。SGLT2阻害薬の心不全に対する作用機序について、利尿によるうっ血解除のほかにも尿細管糸球体フィードバックの増加などさまざまな機序が想定されていますが、不明な点が多いです1)。心不全治療薬としての投与経験が少ない現状においては、まずは臨床試験でエビデンスが示された患者像に対して投与し、確実に経験を重ねていくべきでしょう。ただし、糖尿病を合併している心不全患者さんに対しては、SGLT2阻害薬を「糖尿病と心不全の治療薬」と考え、従来の標準治療を行う前でも投与する場合があります。
副作用対策については、まず性器感染症について説明します。また、過度なボリューム低下、腎機能障害などにもアンテナを張るようにしています。心不全治療薬の効果は患者・医療者の両者にとって「目にみえない効果」であるため、「目にみえる」副作用への対策は最も重要です。心不全の治療戦略においては、副作用プロファイルから薬剤の投与順を組み立てることは意義があると思います。
SGLT2阻害薬投与患者における飲水指導のポイント
心不全患者さんに対する飲水制限については、軽症の慢性心不全では水分制限は不要とされています。ただし、一部の例外があります。飲水制限を考慮すべき患者像としては、重症心不全、腎機能障害、低Na血症です。心不全入院の退院直後は適正な飲水量を把握するのが難しいので、まずは入院中の水分制限量を踏襲し、心不全コントロールの推移を見守りながら緩和していくのが無難です。
SGLT2阻害薬を投与されている患者さんについては、特に投与初期段階で尿量が増加する患者さんがおり、全体像を見据えながら水分制限量や利尿薬の投与量を調整するという選択肢もあります。
おわりに
心不全治療は、大きく2つに分類されます。1つは体液貯留などの症状を改善することを目的とした「目にみえる治療」、もう1つは患者さん自身、ひいては医療者でも実感しえない、しかしエビデンスとして科学的に証明された予後改善を目的とした「目にみえない治療」です。利尿によるうっ血の解除という「目にみえる治療」と予後改善という「目にみえない治療」の両者を併せもつSGLT2阻害薬が使用可能となり、心不全の薬物治療は大きく変化していくでしょう。
SGLT2阻害薬の心不全に対する作用機序は、いまだ不明な点が多いです。しかし、その昔ACE阻害薬が登場した際にも当初はその作用機序が不明で、その後にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の研究が進んだことにより作用機序が解明され、現在は心不全治療に広く用いられています。SGLT2阻害薬に関しても同様に、循環器内科と糖尿病内科をはじめとするさまざまな領域が協働してデータの蓄積と議論を行い作用機序が解明されることにより、心不全の治療戦略における位置づけや投与患者像がみえてくることを期待しています。
【引用】
- Verma S, et al. Diabetologia 61(10): 2108-2117, 2018
その他の関連情報
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