心不全パンデミックを見据えた治療介入の重要性~不整脈医の立場から~
サイトへ公開:2022年12月22日 (木)
現在循環器疾患は日本人の死因の2位を占め、社会の高齢化にともない、その増加が見込まれており、中でも、心房細動と心不全は超高齢化社会に突入した我が国において増加しています。人生100年時代と呼ばれる現在、心不全パンデミックを見据えて、多くの医師がお互いの立場からの英知を共有し、治療介入を行っていくことが重要です。本講演では、不整脈医の立場から「心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法について」、「心不全合併心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーションの有効性」、「ダビガトランの作用機序」について考察を含めてまとめさせていただきました。
座長
奥村 謙 先生
済生会熊本病院 心臓血管センター 不整脈先端治療部門 最高技術顧問
演者
髙橋 尚彦 先生
大分大学医学部 循環器内科・臨床検査診断学講座 教授
Contents
はじめに
心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法について
HFpEFを中心とした心不全合併心房細動に対するアブレーションについて
作用機序から見るDOAC それぞれの特性
司会の済生会熊本病院 心臓血管センター 不整脈先端治療部門 最高技術顧問 奥村 謙 先生の総括
はじめに
現在循環器疾患は日本人の死因の2位を占め、社会の高齢化にともない、その増加が見込まれています。中でも、心房細動と心不全は超高齢化社会に突入した我が国において増加しており、両者は合併しやすく、また互いを悪化させる危険因子です。人生100年時代と呼ばれる現在、心不全パンデミックを見据えて、多くの医師がお互いの立場からの英知を共有し、治療介入を行っていくことが重要です。不整脈医の立場から、心房細動とHFpEF 治療の重要性について共有します。
心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法について
心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下、アブレーション)は、広く行われるようになっており、不整脈薬物治療ガイドラインでも、心房細動に最も多くのページ数が割かれています。
心房細動アブレーションは、出血リスクと血栓塞栓リスクが共に高いことが特徴であり、梗塞イベントは避けなければいけないことはもちろんのことですが、出血イベントである心タンポナーデも1.2~2.5%の頻度で起きるとガイドラインには記載されています1)。
この点に関して、不整脈心電学会において、アブレーションの症例を全例登録するという活動を行っており、2019年の報告では心タンポナーデの発症率は0.64%でした2)。
こうした背景から、アブレーションを安全に実施するには、適切な抗凝固療法が重要となります。現在、ガイドラインには、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行する」ことがクラスⅠ、エビデンスレベルA、「リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行することを考慮する」ことがクラスⅡa、エビデンスレベルBで記載されています。ダビガトランに関する記載の根拠となったのがRE-CIRCUIT試験であり、ワルファリン継続投与に対しダビガトラン継続投与で出血リスクが有意に減少し、血栓塞栓症のリスクは同程度であることが示されています(図1・2)。
本試験における全ての有害事象の発現率は、プラザキサ継続群225例(66.6%)、ワルファリン継続群242例(71.6%)でした。
重篤な有害事象の発現頻度、発現頻度が1%以上の有害事象、投与中止に至った有害事象はご覧の通りです。なお、両群で試験期間中の死亡は報告されませんでした(図3)。



HFpEFを中心とした心不全合併心房細動に対するアブレーションについて
HFpEF(左室駆出率の保たれた心不全)があると心房細動のリスクは6.8倍、心房細動があるとHFpEF のリスクが2.34倍となり、HFpEF に対する心房細動の合併率は平均で51%、心房細動に対するHFpEF の合併率は21%と報告されています(図4)。このように、心房細動(AF)とHFpEFは密接に関連しており、HFpEF 合併心房細動はより予後が悪いと報告されています。

CHARM 試験の結果3)、EFが保持されている患者のほうが、EFが低下している患者よりも心血管イベントが多かったこと、また別の報告4.5.6)でも、HFpEFに心房細動を合併すると、さらに予後が悪くなることが分かっています。こうしたことから、洞調律を維持するために、リズムコントロールをしたいと考えるのは当然だと思います。ところが、抗不整脈薬は、心不全がある患者さんに投与されると、予後がむしろ悪化することが知られており7)、年々アブレーションの優先順位が高くなってきています8)。
ここで当教室、大分大学循環器内科・臨床検査診断学教室の福井らの報告を紹介します。心房細動と診断されたHFpEF患者85例を対象として、アブレーションを行った群は薬物治療を行った群と比較し、心不全による再入院が少ない(図5)との結果でした。また、洞調律が維持できた群は、心房細動で経過した群あるいは発作性心房細動で再発した群よりも、心不全再入院が少なかったことも確認されています。心房細動アブレーションは、発症してからできるだけ早く行ったほうが洞調律維持率が高いことが分かっています9)ので、早期に診断してアブレーションを行うことが重要です。

一方で、2010~2015年に心房細動アブレーションを施行した60,203例を対象として、心房細動アブレーション後の早期死亡率、傾向、リスク因子について検討した報告があります10)。その結果では、併存疾患を持っている患者が増加しており、これが死亡率の上昇につながっている可能性があると報告されています。診断技術が進歩してきたことにより、心不全や冠動脈疾患、肺疾患、慢性腎臓病などの併存疾患を有する患者にアブレーションを行う機会が増えています。併存疾患がある患者さんには慎重にアブレーションをしなければいけないということが示唆されました。これは本邦においても同じことが言えるかと思います。
作用機序から見るDOAC それぞれの特性
RE-CIRCUIT試験で、ダビガトランはアブレーション周術期の出血頻度が少なく、ガイドラインでクラスⅠで推奨されているわけですが、この結果が得られた理由について考えてみたいと思います。
ワルファリンは、Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子を抑えますが、特にその中でこの第Ⅶ因子を強く抑える効果があり、抗凝固作用を発揮します。この第Ⅶ因子はどのような働きをしているかというと、例えば脳に微小な出血が生じたときには、小さな血管が破れるわけですが、第Ⅶ因子が組織因子と一緒になってその止血作用を担って、それを鎮火します。この第Ⅶ因子が維持されていることが、出血時には非常に大切です。
アブレーション周術期の出血は侵襲的処置が影響している可能性があり、止血の開始期には第Ⅶ因子の活性が重要であり、第Ⅶ因子を活性化する因子は主に第Ⅹa因子になります。
トロンビンは、「外因系」へのポジティブフィードバックを持たないことから、ダビガトラン投与下においても第Ⅶ因子への影響が少ないことが報告されています(図6)。

最近よく言われるshared decision making、SDM ですが、EBMを患者さんにしっかり伝え、その意見が交わるところで、どのような治療方針にするか、アブレーション周術期の抗凝固薬として何を選ぶかなどをしっかり検討し、最適な患者ケアを行うことが重要であるということを述べまして、私の発表にかえさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。
司会の済生会熊本病院 心臓血管センター 不整脈先端治療部門 最高技術顧問 奥村 謙 先生の総括
今日は、「心不全パンデミックを見据えた治療介入の重要性」というテーマでご講演をいただきました。
超高齢社会に突入するわが国にとって、心不全はまさにパンデミックであり、「どう対応していくか」、「どのようにして患者さんのQOLを改善し、そして生命予後の改善につなげていくか」は、我々にとって非常に重要な課題です。
我々は、最新の情報を、いつも認識し、そして患者さんにフィードバックしていく姿勢が必要ではないかと思います。心不全の大きな原因になる心房細動の治療は、まさに日進月歩です。
以前の抗不整脈薬によるリズムコントロールから、現在はアブレーションによる根治を目指す治療になっています。本日の髙橋先生のご講演をつうじて、アブレーションの有効性をより多くの先生方に知っていただくとともに、専門医へのより早期の紹介を検討いただきたいと思います。
References
- 2020年版不整脈薬物治療ガイドライン.
- Kusano K, et al. J Arrhythm.2021 Oct 7;37(6):1443-1447.
- Olsson LG, et al. JACC 2006;47(10):1997-2004.
- Sartipy U, et al. JACC Heart Fail2017;5(8):565-574.
- Zafrir B, et al. Eur Heart J 2018;39(48):4277–4284.
著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より講演料等を受領している者が含まれる - 2020年版不整脈薬物治療ガイドライン.
- Flaker GC, et al. J Am Coll Cardiol 1992; 20: 527-532.
- Hindricks G, et al. Eur Heart J 2020;42(5):373-498.
- Chew DS, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2020 Apr;13(4):e008128
- Cheng EP, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 74: 2254-2264.
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