特発性肺線維症に対する栄養療法の重要性(静止画)
サイトへ公開:2025年01月29日 (水)
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ご監修:
冨岡 洋海 先生(神戸市立医療センター西市民病院 副院長/呼吸器内科部長)
田中 弥生 先生(関東学院大学栄養学部管理栄養学科 学部長)
今回は、特発性肺線維症(IPF)に対する栄養療法の重要性について紹介します。
IPF患者さんの栄養状態に咳が与える影響
IPF患者さんでは咳と労作時呼吸困難が症状としてみられますが、このうち咳は1回あたり2kcalを消費するといわれています1)。IPF患者さんの1日の活動時間を18時間、1時間あたり14.6回咳をする※1と仮定した場合、咳による消費エネルギーは1日あたり525.6kcalとなります。525.6kcalというのは、体重70kgの方がランニングや水泳であれば約1.0時間、普通歩行であれば約2.6時間で消費するエネルギーとほぼ同じです(図1)※2。
図1

咳で消費するエネルギーを食事で補うことができればよいのですが、IPFのように呼吸機能が低下した患者さんは嚥下時も苦しいうえに、喘ぐあまりに空気を飲み込んで胃に空気が充満し、胃から来る膨満感で食欲不振が生じていることが多くあります。そのため、十分な量の食事を摂ることが難しく、栄養状態が悪化しやすい状況にあります。
体重減少がIPF患者さんの予後に与える影響
十分な量の食事を摂れないなどの理由から体重が減少してしまうと、IPF患者さんの予後が悪化する可能性が考えられます。
図2は日本国内と英国それぞれのコホート研究において、IPF患者さんの体重減少の有無と生存率の関連を調べた結果です。どちらのコホートにおいても、体重減少が確認されたIPF患者さんは、体重減少が確認されなかった患者さんと比較して有意に予後不良でした(日本コホート:p<0.001、英国コホート:p=0.029;いずれもlog-rank検定)(図2)4)。
図2

IPF患者さんの栄養状態と抗線維化療法の忍容性
IPFの治療選択肢のひとつに抗線維化療法があります。抗線維化療法は継続することが重要ですが、十分な食事を摂れずに栄養状態が悪化してしまうと、抗線維化療法の忍容性に影響が及ぶ可能性があります。
ここからは、IPF患者さんの栄養状態と抗線維化療法の忍容性について調査した国内の研究5)をご紹介します。
本研究は、2009年2月から2021年10月までの間に抗線維化療法を受けたIPF患者さん301例を対象に実施されました。
IPF患者さんの栄養状態の評価には、血清アルブミン値と実体重及び理想体重※3から算出されるGNRIスコア※4が用いられました。本来、GNRIスコアは82未満、82以上92未満、92以上98未満、98以上の4段階に分類しますが、本研究では、98未満を「リスクあり」、98以上を「リスクなし」と定義しました5)。
なお、本研究の限界として、レトロスペクティブな検討である点と、GNRIスコアの算出に使用されるBMIの基準値は人種及び国によって異なるものの、栄養状態の評価にはGNRIスコアしか用いていない点が挙げられます(図3)。
※3 理想体重=22×(身長[m])2
※4 GNRI=[1.489×血清アルブミン、g/L]+[41.7×実体重/理想体重]
GNRI:Geriatric Nutritional Risk Index
GNR:Geriatric Nutritional Risk
BMI:肥満指数
図3

抗線維化療法中止の累積発生率
本研究では、栄養不良関連リスクの有無別に抗線維化療法中止の累積発生率が調べられました。
全原因による抗線維化療法中止の累積発生率は、栄養不良関連リスクあり群でリスクなし群よりも有意に高い結果でした(p=0.003、Grey検定)。
消化器系の副作用による抗線維化療法中止の累積発生率についても、栄養不良関連リスクあり群でリスクなし群よりも有意に高い結果でした(p=0.033、Grey検定)(図4)。
図4

抗線維化療法中止となった群におけるGNRIスコア別の生存率
GNRIスコア別の生存率の推移を図5にお示しします。
GNRIスコア82未満の群、82以上92未満の群では、20ヵ月時点の生存率が60%を下回っていました(図5)。
図5

抗線維化療法中止の予測因子
さらに本研究では、抗線維化療法を受けたIPF患者さんにおける抗線維化療法中止の予測因子についても検討されました。
複合コホートの単変量および多変量Fine-Grey解析の結果、栄養不良関連リスク(GNRI 98未満)が、年齢、性別、%FVCとは無関係に、抗線維化療法の中止において唯一の有意なリスク因子であることが示されました(図6)。
図6

安全性
なお、本研究では安全性情報は収集されておりません。
抗線維化療法に関する安全性の詳細につきましては、電子添文をご参照ください(図7)。
図7

小括
ここまで、体重減少がIPF患者さんの予後悪化と関連することや、栄養状態の悪化が抗線維化療法中止のリスク因子となることをご紹介しました。これらのことを踏まえると、IPF患者さんにおいて抗線維化療法を継続し、予後改善につなげていくには、栄養状態が悪化し体重減少が起こる前から栄養療法による介入が必要になると考えます。
GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準による低栄養診断
栄養ケアプロセスは、①栄養スクリーニング、②栄養アセスメント、③栄養診断、④栄養介入(計画と実施)、⑤栄養モニタリングと評価、⑥個人・集団の栄養管理の標準化、栄養管理経過の標準化の6つの手順で行われます(図8)6)。
図8

IPF患者さんに対しては、1つ目の手順である栄養スクリーニングで栄養リスクの有無を確認し、栄養リスクのある場合に低栄養診断と必要に応じて重症度判定を行うという、GLIM基準による評価が必要です。GLIM基準における低栄養の診断指標は、表現型基準3項目(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と病因基準2項目(食事摂取量減少/消化吸収能低下、疾患による負荷/炎症反応)であり、両基準からそれぞれ1つ以上の項目が該当する場合、低栄養と診断します(図9)7)。
GLIM基準を用いることで、従来の食物摂取不足による低栄養に加え、炎症などの疾患関連性低栄養も考慮した低栄養診断が可能になります。
図9

IPF患者さんに対する栄養療法
IPF患者さんに対する栄養療法では、三大栄養素である炭水化物、たんぱく質、脂肪の組成比を考慮する必要があります。その理由として、食欲が落ちたときに日本人がよく食べるおにぎりやうどんなどの炭水化物がCO2排出の多い栄養素であるため、代謝過程で産生されたCO2が体内に貯留することが挙げられます。CO2が体内に貯留した結果、さらに苦しさが募って食欲不振や全身の倦怠感に拍車がかかります。
このため、IPF患者さんでは、栄養状態の改善及びCO2の産生と貯留を抑制することをねらいとして、管理栄養士からは低糖質・高脂肪・高たんぱく食を提案しています(図10)。
図10

具体的なメニューとしては、患者さんとそのご家族が取り入れやすいように、一品でいろいろな栄養素をバランス良く含むことができるサンドイッチやチャーハン、お好み焼き、丼物などをご紹介します。また、食欲のない患者さんや通常の食事では栄養素を必要量摂取することが難しい患者さんには、栄養補助食品を活用します。たとえば、必須アミノ酸であるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)とEPA(エイコサペンタエン酸)などのn-3系脂肪酸を強化した栄養補助食品は、栄養不足から生じる免疫機能の低下と筋量の減少を抑える効果を期待して取り入れます。栄養補助食品にはそのまま飲用できる液状の濃厚流動食タイプや半消化態流動食、水や湯で溶いて飲む粉末タイプ、固形状、ゼリー状などいくつかのタイプがあります(図11)。味や食感も含めて、患者さんの好みを確認しながら、適したものを選ぶようにしています。経口摂取が可能な患者さんはできるだけ口から食べてもらうことが望ましいですが、IPF患者さんの中には食事動作に伴う呼吸困難や急性増悪によって経口摂取が難しい患者さんも少なくありません。このような経口摂取が難しい患者さんに対しては、経腸栄養食品を活用します8)。
図11

また、IPF患者さんの栄養状態の悪化を防ぐ目的だけでなく、薬物療法を支える支持療法としての食事管理も重要です。IPFの薬物療法のひとつである抗線維化療法では、副作用のひとつとして下痢が認められます。
IPF患者さんが下痢でお困りの場合は、下痢のために「絶食」することは栄養状態の悪化につながるため、できる限り避けるようにとお伝えしています。また、
① 間食を取り入れて1日3食を6食にするなど、数回に分けて食べる
② 時間をかけて咀嚼、嚥下する
③ お腹を下しやすい脂質は温めたクリームシチューなど乳化した形で摂取する
など可能な形で食事を摂ることを患者さんにお話ししています(図12)。
図12

これらに加えて、中鎖脂肪酸(MCT:Medium Chain Triglyceride)を利用したり、プレ/プロバイオティクスや食物繊維で腸内細菌叢にアプローチしたりといった工夫も行います。
IPF患者さんに対する栄養療法を管理栄養士にご依頼いただくと、患者さんの状態に応じて具体的な食事方法やメニューをご提案することができます。IPF患者さんの栄養状態の悪化を防ぎ、抗線維化療法の継続や予後改善につなげていくためにも、管理栄養士による栄養療法を含めたIPF診療を進めていただけますと幸いです。
プレバイオティクス:消化管に常在する有用な細菌を選択的に増殖させたり、有害な細菌の増殖を抑制したりすることで宿主に有益に働く難消化性食品成分。オリゴ糖類、食物繊維類など。
プロバイオティクス:腸内細菌叢のバランスを改善することによって、宿主の健康に有益に働く生きた微生物菌体。乳酸菌、ビフィズス菌などの生菌製剤やヨーグルトなど。
今回ご紹介した内容を、IPF患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。
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