HFpEF治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけ
サイトへ公開:2024年08月29日 (木)
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ご監修:倉林 正彦 先生(群馬大学名誉教授/藤岡市国民健康保険鬼石病院 地域連携医療センター長)
2023年5月~8月にかけて、国内では「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」の発出、海外ではHFpEFの管理に関する米国心臓病学会(ACC)エキスパートコンセンサス、欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインのフォーカスアップデート版の発表があり、その内容として、HFpEF治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけに変化が見られています。
本コンテンツでは、国内外のガイドラインや新たに発表された国内のRecommendation、ACCエキスパートコンセンサス、ESCガイドラインのフォーカスアップデート版等の内容を踏まえ、HFpEF治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけとジャディアンスのエビデンスを 倉林 正彦 先生(群馬大学名誉教授/藤岡市国民健康保険鬼石病院 地域連携医療センター長)にご解説いただきます。
まとめ
- SGLT2阻害薬は、「2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」でHFrEFに対する基本薬のひとつとして示されたが1)、今回のRecommendationでは、2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、「リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する」とされた2)
- 日本人慢性心不全患者は、高齢、BMIおよびeGFR低値といった臨床的特徴を有する可能性が示唆されており3)4)、その特性にあったエビデンスを参考にする必要があると思われる
- ジャディアンスのEMPEROR-Preserved試験ではさまざまなサブグループ解析が実施されており、こうした結果から、ジャディアンスはLVEFを問わず日本人患者の心不全マネジメントに有用な薬剤のひとつであると考えられる5)
HFpEF:LVEFの保たれた心不全
HFrEF:LVEFの低下した心不全
LVEF:左室駆出率
本邦の慢性心不全治療におけるSGLT2阻害薬の位置づけ
近年、慢性心不全治療におけるSGLT2阻害薬の重要なエビデンスが次々と報告され、その治療は大きく変化しているといえます。2019~2020年にはHFrEF、2021~2022年にはHFpEFに対するSGLT2阻害薬のエビデンスが報告され1-4)、これらを受けて国内外のガイドラインが次々とアップデートされました。
本邦では、2021年に「2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」が発表され、新たな心不全治療アルゴリズムが示されました(図1)。本治療アルゴリズムでは、SGLT2阻害薬がHFrEFに対する基本薬のひとつとして示されました。一方、HFpEFおよびLVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)に対する治療では、それぞれ「うっ血に対し利尿薬、併存症に対する治療」、「個々の病態に応じて判断」との記載で、基本薬は示されていません。
図1

しかし、その後に一部のSGLT2阻害薬はHFpEFに対しても使用可能となり、心不全患者に対する標準的治療薬のひとつとして使用機会が増加しています5)。これを受けて2023年6月、日本循環器学会・日本心不全学会より「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」が発出されました5)。
本レコメンデーションでは、心不全患者に関して「SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)は2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する」としています。また、SGLT2阻害薬を使用中の心不全患者が食事摂取制限を伴う手術を受ける場合の休薬および再開のタイミングに関して、2型糖尿病の合併有無別で言及されています。そして緊急手術の場合には、2型糖尿病の合併・非合併にかかわらず、SGLT2阻害薬の休薬についてリスクとベネフィットを十分に勘案して現場での判断を許容するとしています。なお、いずれの場合も必要に応じて循環器専門医への紹介を考慮することとしています(図2)。
図2

海外における慢性心不全治療の動向
一方、海外における慢性心不全治療の動向として、まず、2021年にESCガイドラインのHFrEFの治療戦略において、死亡率低減のための主な治療としてファンタスティックフォーと呼ばれるACE阻害薬/ARNi、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬の4剤が掲げられ(図3)、SGLT2阻害薬がHFrEF治療の一角を担う薬剤に位置づけられました。
図3

さらに翌年、AHA/ACC/HFSAによる心不全管理ガイドライン 2022年版では、SGLT2阻害薬がHFmrEFおよびHFpEFのいずれに対しても推奨クラス2aとされ、必要に応じた利尿薬の使用が推奨クラス1、その他の薬剤は推奨クラス2bとされました(図4)。ここでのクラス2aと2bの違いは、2aが「妥当である」、「有用/有効/有益であると考えられる」、2bが「妥当であると考えられる」、「考慮してもよい」といった表現の違いで表されます。
図4

そして2023年5月、HFpEFの管理に関するACCエキスパートコンセンサスが発表され、ご覧の治療アルゴリズムが示されました(図5)。本エキスパートコンセンサスでは、SGLT2阻害薬はLVEFを問わず心血管死および心不全による入院のリスクの抑制を示したとして、禁忌に該当する患者を除いてHFpEF患者に導入すべきとしています6)。
図5

また、2023年8月にはESCガイドラインのフォーカスアップデート版が発表され、HFpEF患者に対する推奨治療とマネージメントがアップデートされました。本アップデートでは、症候性HFpEF患者の治療としてSGLT2阻害薬(ダパグリフロジンまたはエンパグリフロジン)が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAで推奨され、HFpEF患者のマネージメントがご覧のように示されました(図6)。
図6

こうした近年の国内外のガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の記載の根拠となっているエビデンスに、ジャディアンスのEMPEROR-Reduced試験2)、EMPEROR-Preserved試験3)があります。ジャディアンスはこれらの臨床試験でそれぞれHFrEFおよびHFpEFに対する有効性が検証され、LVEFを問わず慢性心不全※に対する承認を取得しています。
※ジャディアンス錠10mgの効能又は効果(一部抜粋)「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」
日本の慢性心不全患者の特徴
一方で、日本と海外では患者の臨床的特徴が異なるため、こうした大規模臨床試験によるエビデンスをどこまで参考にしたらよいか迷うこともあるでしょう。
本邦における大規模な登録観察研究 JCARE-CARDでは、平均年齢が70.7歳と、患者の多くが高齢であることが示されました7)。さらに、高齢心不全患者の特徴を検討したJCARE-CARD研究の解析では、登録患者における80歳以上の割合は29%であり、高齢患者の特徴として、女性、BMIおよびeGFRが低値、HFpEFが多いことなどが挙げられました8)。実際に、ジャディアンスのEMPEROR-Preserved試験の日本人患者集団の患者背景では、平均年齢が74.4歳、平均BMIが24.27~24.42でした(図7)。
こうした日本人患者の臨床的特徴を考慮すると、実臨床で投与を検討するには、その特性にあったエビデンスを参考にする必要があります。
慢性心不全におけるジャディアンスのエビデンスの特徴として、さまざまなサブグループ解析が行われている点が挙げられます。そこで今回は、EMPEROR-Preserved試験の結果を、日本人集団での解析結果や、年齢別、腎機能別のサブグループ解析結果を含めてご紹介します。
図7

EMPEROR-Preserved試験
EMPEROR-Preserved試験では、LVEFが40%を超える慢性心不全患者5,988例を対象に、ジャディアンス10mgを標準治療に追加したときの有効性と安全性がプラセボと比較検討されました(図8)。本試験の主要評価項目(検証的な解析項目)は、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間でした。解析計画はご覧のとおりです(図9,10)。
図8

図9

図10

本試験では、心血管死または心不全による入院の初回発現のリスクは、プラセボ群と比較してジャディアンス群で21%有意に低下しました(HR=0.79、95.03%CI: 0.69~0.90、p<0.001、Cox比例ハザード回帰モデル、検証的な解析結果。)(図11)。
図11

EMPEROR-Preserved試験 ―日本人集団、年齢別、腎機能別解析結果―
こちらは主要評価項目の日本人集団におけるサブグループ解析結果です。
日本人集団において、心血管死または心不全による入院の初回発現はジャディアンス群で10.4%、プラセボ群で16.1%に認められ、プラセボ群に対するジャディアンス群のハザード比は0.58(95%CI:0.34~1.00)でした(図12)。
図12

次に、年齢別の解析結果をお示しします。心血管死または心不全による入院の初回発現の推定累積発現率は、65歳未満、65~74歳、75~79歳、80歳以上のそれぞれの群でご覧のように推移しました(図13)。
図13

また、心血管死または初回の心不全による入院、および初回の心不全による入院について、ハザード比を連続変数とした場合の年齢別の治療効果はご覧のように示されました(図14)。
図14

最後に、腎機能別の解析結果をお示しします。ベースライン時のCKD/非CKD別の解析では、主要評価項目およびその他の副次評価項目(探索的)について、それぞれご覧の結果が示されました(図15,図16)。
図15

図16

安全性(全体集団および日本人集団)
最後に本試験の安全性をお示しします。
EMPEROR-Preserved試験の全体集団における有害事象発現割合は、治験薬投与期間中央値1.91年においてジャディアンス群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。ジャディアンス群で発現割合が5%以上の有害事象は、心不全15.0%、尿路感染7.9%、低血圧7.7%、高血圧7.3%、転倒7.1%、心房細動7.0%、腎障害7.0%、高カリウム血症6.0%、肺炎5.3%でした。
ジャディアンス群では重篤な有害事象が47.9%、投与中止に至った有害事象が19.1%、死亡に至った有害事象が9.6%に認められ、その内訳はご覧のとおりでした(図17)。
図17

また、日本人集団における安全性はご覧のとおりです(図18)。日本人集団の有害事象発現割合は、治験薬投与期間中央値2.15年においてジャディアンス群で92.5%(196/212例)、プラセボ群で94.1%(193/205例)でした。
図18

2021~2022年にHFpEFに対するSGLT2阻害薬のエビデンスが報告され3)4)、国内では「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」において、2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらない使用について言及されました。また、海外ではACCエキスパートコンセンサスにおいてSGLT2阻害薬のHFpEF治療における治療アルゴリズムが明示され、ESCガイドラインのフォーカスアップデート版では、HFpEF患者のマネージメントのひとつにSGLT2阻害薬が示されました。一方で、こうした位置づけは大規模臨床試験の結果を根拠としており、日本人患者への投与を検討するうえで、どこまで参考にしてよいかという疑問もあります。
ジャディアンスのEMPEROR-Preserved試験では日本人集団解析、年齢別解析等のサブグループ解析が実施されており、こうした結果から、ジャディアンスはLVEFを問わず日本人患者の心不全マネジメントに有用な薬剤のひとつであると考えられます9)。
【引用】
【冒頭まとめ】
- 日本循環器学会, 日本心不全学会.:2021年JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療, p13, 2021年9月10日更新
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf(2024年6月閲覧) - 日本循環器学会・日本心不全学会.:心不全治療における SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/06/jcs_jhfs_Recommendation_SGLT2_Inhibitors__HF.pdf(2024年6月閲覧) - Hamaguchi S, et al. J Cardiol. 2013; 62(2): 95-101.
- Hamaguchi S, et al. Circ J. 2011; 75(10): 2403-2410.
- Zannad F, et al. Lancet. 2020; 396(10254): 819-829.
【本文】
- McMurray JJV et al. N Eng J Med 2019; 381(21): 1995-2008.
- Packer M, et al. N Engl J Med. 2020; 383(15): 1413-24. (本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により行われた)
- Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021; 385(16): 1451-61. (本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により行われた)
- Solomon SD et al. N Engl J Med. 2022; 387(12): 1089-1098.
- 日本循環器学会・日本心不全学会 心不全治療における SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/06/jcs_jhfs_Recommendation_SGLT2_Inhibitors__HF.pdf(2024年6月閲覧) - Kittleson MM, et al. J Am Coll Cardiol. 2023; 81(18): 1835-1878.
- Hamaguchi S, et al. J Cardiol. 2013; 62(2): 95-101.
- Hamaguchi S, et al. Circ J. 2011; 75(10): 2403-2410.
- Zannad F, et al. Lancet. 2020; 396(10254): 819-829.
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